大桑町猫シタイ

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【現在の町名】大桑町猫シタイ
【感想・雑記】 今回は番外編です。旧町名ではなく現役町名です。逆によくぞ生き残ってくれた、と拍手喝采をおくってあげたい小字「猫シタイ」をどうしてもご紹介したい!というわけです。

大桑町猫シタイは山間部の町で、おそらく世帯数ゼロですので、まさか見つかるとは思ってませんでした。金沢市企業局のとある設備にて発見することができました。
「大桑町猫シタイ」は「おおくわまちねこのしたい」と読みます。うーむ。なにやら事件のにおいがぷんぷんしますね。猫の死体ってどういうことでしょうか。まあ、謎解きはランチの前にいたしましょうか。

まずは、大桑町の場所を確認しましょう。グーグル先生で「金沢市大桑町」を検索すると、かなり広範な地域であることがわかると思います。金沢市民にとっては、金沢外環状道路・山側幹線(山側環状線、通称山環)の開通によって発展著しいあのあたりを思い浮かべるかもしれませんが、あそこは大桑のごく一部です。あのあたり、すなわち平成22年(2010年)に新しく誕生した大桑一丁目〜三丁目のほか、大桑新町や、大桑地区で唯一住居表示されている西大桑町がありますが、残る大半はただの大桑町です。大桑郷は平安期からある古い地名で「おんま」ともいわれます。江戸時代は石川郡大桑村明治22年(1889年)以降は石川郡崎浦村大字大桑だった地域で、昭和11年(1936年)に崎浦村が金沢市編入されて大字大桑が大桑町となりました。そんな大桑町は、金沢でも数少ない小字地名の宝庫なのです。

石川県では小字の統廃合や整理によってイロハ小字が誕生したらしいよ、ということを、長田本町ヘの旧町名とともに前回お伝えしました。大桑町でも、もちろんイロハ小字は見られるのですが、イロハではない小地名、つまり江戸時代あるいはそれ以前に由来すると思われる小字も多数見られます。「福島県福島市渡利」の237小字には到底およびませんが、猫シタイ以外の大桑町の小字地名には、今でも以下のようなものが見られます。

法師山、坊山、小寺山、鐘搗山、中尾山、西ノ山、上川原、御所谷、中ノ大平、中平、平、開、和、葭島、下葭島欠、鱒川淵欠、上猫下。。。

土地がら「◯◯山」の地名が多いですね。いっぽう、平野部に多い「◯◯田」の小字がいっさい見られません。「◯◯欠」は「崖」の意味かな?なお、坊山(御坊山)の小地名は、慶長6年(1601年)に一向一揆対策として大桑から材木町六丁目(現橋場町)に移転させられた善福寺さんに由来するというから江戸期以前の古い名前ですね。善福寺は真宗寺院の加賀三ヶ寺の1つとも言われ、宇喜多秀家正室の豪姫(利家公・まつの四女)ともゆかりのある寺院だそうですよ。それにしてもなぜ大桑にこれだけイロハでない小字地名が残ったのでしょうかね。

閑話休題。ようやく本題の猫の死体事件についてですが、我がバイブル『角川日本地名大辞典』の巻末資料「小字一覧」を見れば、ランチの前よりさらに前(朝めし前)に解決となりました。崎浦村大字大桑の小字に「猫額(ネコガク)」と書いた地名が見られます。猫の額(ひたい)ほどの狭い土地、くらいの意味だと思いますが、これが江戸っ子風に訛って、猫のひたい→猫のしたい→猫シタイとなったとすれば、全てのつじつまが合いますね!なお、猫下(ねこのした)にイロハ小字のイを付けた「猫下イ」という説もあるようですが、やはり「小字一覧」の「猫額」が動かぬ証拠といったところでしょう。
※ちなみに野田町には中平に対して中平ム(なかのひらむ)があります

最後になりますが、小字は前回にもお話ししたとおり、全国的に一村通し(大字通し)の番地を付されたがゆえに、無用の長物となって滅びゆくのみ。せっかく小字単位に番地が付与された金沢でも、区画整理事業によって次々と小字地名が淘汰されています。せめて、生き残っている小字だけでも守っていきたいですね。我々1人1人がその気持ちを持ち続けることが大事だということ、お忘れなきよう。
猫シタイとか鱒川淵欠なんて名前、最近増えてるキラキラ地名には真似できない個性的なセンスだと思うんですけどね。
ついでに、今回小字地名に興味を持たれた方には、マピオンという地図サイトがオススメです。小字の境界線まで、かなり細かく色分けされて分かるのでグーグルマップよりも楽しいですよ。まず手始めに『角川日本地名大辞典』を片手に、小字王国の福島県を眺めてみるのがよいでしょう。

以上、消滅地名ではない番外編でお送りしました。おまけとして、大桑町の小字で、消滅しているものの今も通称地名としてバス停にその名を残す小字「大道割」を掲載してお別れします。次回は通常にもどりますの予定。

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春の足音聞こえるおんまの里(上)
猫シタイから猫下方面を望む(つつじヶ丘)(中)
消滅した小字「大道割」バス停(大桑町カ)(下)
[参考文献:『角川日本地名大辞典 17 石川県』角川書店(1982)、今尾恵介『地名の楽しみ』ちくまプリマー新書(2015)、市民が見つける金沢再発見、崎浦公民館HP]
[発見日:平成26年7月21日]